海で、生きる ①
「次の奴、前へっ!」
教官の大声をきいて、安藤は一歩前に出た。
足元には、いっぱいに新聞紙が広げてある。安藤はその前に跪いた、頭を前に出した。
今日は海洋大学の入学式の日。海洋大学の入学式では、新入生全員の頭を坊主にするという伝統がある。遊具もなにもない広いグラウンドに跪いた安藤の後ろにはまだ、20人ほどが列をなしている。
ブーーーン、とバリカンの音が聞こえる。安藤は目の前にある新聞の記事を見ていた。見ていた、というより何も頭に入ってこなかった。ただ、黒い模様がある紙を眺めているだけだった。
バリバリバリ。自分の後頭部から聞こえてくる音と共に、その模様は落ちてくる髪の毛であっという間に見えなくなった。
安藤は、下にたまりゆく自分の髪の毛を見ながら思い返していた。
「どうしてこうなっちまったんだろう。」