海で、生きる ②
安藤は、両親が医者の家庭に生まれた。そのせいもあり、生まれた時から自分は医者になるものだと思っていた。
しかし、現実はその通りにならなかった。中高一貫の進学高に行くも、成績はそこそこ。大学受験は失敗し、2回浪人。3回目の受験ではもう開きなおり、医学部の他になんとなく海洋大学を受験。その結果、見事海洋大学のみ合格。
もはや両親も何も言わなかった。本当は親も期待していたんだと思う。けどもう限界だった。安藤はよく分からずも、海洋大学に進学することに決めた。
教師陣に報告した時も、色々なことを言われた。
けど、もうどうでもよかった。
毎日駿台の自習室に行くのも、学校のより少し青色が強い黒板で講義を受けるのも、家帰って母親がつくってくれたラップしてある夕飯を温めて食べてすぐ部屋に戻るのも。
死んでるのも同然だな、と思った。
帰り、乗客が誰もいない小田急線の各停に乗って帰る時、赤本からふと顔をあげると暗い窓に自分の顔が写っていた。
じっと見た。べつにやつれているわけでもないし、身なりが汚いわけではない。
でももう無理なんだ。
どこでもよかった。もう一度、あの小田急線にのって、暗い窓に映る自分の顔と目があってしまったら、すべてが崩壊しそうだった。
海洋大学の入学手続きのことは、あまり覚えていない。
自宅に封筒がきて、記入しなければいけないところに記入し、印鑑を押して返送した。
それから、死んだように寝た。誰とも会わずに、ただベッドに倒れ、天井を見ていた。
天井が真っ白でよかった。
自分の顔が映らないから。